標準的経済学の理論は、完全に合理的かつ利己的に行動する「経済人(ホモ・エコノミカス)」しか存在しないことを前提としています。しかし現実には、その前提に反する実例(アノマリー)が数多く存在することを示し、一見合理的でない人間の行動を体系化、理論化していくのが「行動経済学」と呼ばれる新しい学問分野です。
様々な実験の結果から、人間の行動がもつ以下のような非合理的な特性が確認されています、という話が第7章まで。
後知恵バイアス、アンカリング効果、感応度逓減性、損失回避性、確実性効果、確率加重関数の非線形性、フレーミング効果、初期値効果、メンタル・アカウンティング(心の会計)、サンクコスト効果、極端回避性(妥協効果)、選択のパラドックス、現在志向バイアス、投影バイアス、等々。
第8章では人間の利他的な行動に着目しています。他の人が協力するなら自分も協力する、あるいは他の人が協力しないなら自分も協力しないという行動を取る人を、経済人とは異なる「互酬人」と呼び、両者が混在する環境で処罰という制度がある場合には、利己的な経済人にも協力行動を取らせることが可能になることが示されています。
ここからは私見ですが、過剰に経済人的な行動は、現実には感情で行動する人間の反感を買いやすく、かえって自己の利益を遠ざける結果になる一方、逆にまったく合理的、利己的な考え方ができない人が幸せになれるとも思えないのです。やはり、何が合理的で何が非合理的かを正しく理解した上で、時には非合理的な行動を自らの意思で選択する柔軟性をもつことが最も重要だと考えます。本書には、そのような判断の助けになるであろう知識が満載されています。
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