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社会保障の不都合な真実 - 学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学) - Yahoo!ブログ
前著の『だまされないための年金・医療・介護入門』よりも幅広く社会保障問題の真実を解説する本です。とりあえず年金問題だけを知りたいのであれば、前著の方が読みやすくて良いと思います。
「国民年金の未納がいくら増えても問題ない」同意します。
…
(中略)
最近、年金や医療、介護、子育てなど、社会保障に関する新聞、雑誌記事や本、テレビなどにおいて、右のような「楽観的な社会保障論」が世の中に多く流布されている。
(中略)
しかしながら、筆者たちのような経済学者の目から見ると、これらはあまりに荒唐無稽な楽観論だ。本書で詳しく述べるように、こうした主張は経済学から見ればすべて「間違い」であり、それを安易に信仰することは「現実逃避」に他ならない。
現在の高齢者たちは、若いころ行った負担の何倍もの社会保障給付を受け「得」をしていることを、当然の権利と考えているようである。そうなんです。人は基本的に利己的なのです。どんなに醜くてもそこから目を背けていては、政治も経済もうまく動かないと思います。
現在の大盤振る舞いの社会保障費再膨張路線は、戦艦「大和」のように、これまでの成功モデル(大艦巨砲主義)の終焉を飾る「時代の最後の号砲」である。戦艦大和はぴったりのたとえですね。本当に最後の号砲を残して沈んでいってほしいものです。
前著になかった子育て分野の問題点について。
乳児一人に月額57万円公立保育所がここまで高コストとは知りませんでした。
千代田区57万円、杉並区56万円、台東区55万円、大田区54万円……その他の東京都23区も軒並み40万円~50万円台。この数字は、東京都各区の公立保育所において、0歳児一人あたりにかかっている保育費用である。年額ではない。驚くべきことに月額である。
(中略)
一方、保育料として認可保育所に入所している児童の親が支払っている費用は、後述のように平均して2万円強にすぎず、保育料でまかなえない運営費の残りは、国や自治体からの公費・補助金でまかなわざるをえない。つまりは、我々の税金である。認可保育所、特に公立保育所は、ほとんど税金で運営されている事業であるといっても過言ではない。
母親の多くは、年収103万円の壁を超えないように就業調整するため、月の収入は7万~8万円といったところである。この収入のために、その数倍の公費負担がかかる認可保育所を、財政難に苦しむ各自治体が本気で作ろうとするだろうか?たしかに年収103万円では所得税も住民税も取れないわけですから、自治体にとって何のメリットもないですね。
それにしても、一人の母親が稼ぐ103万円のために、600万円の税金を費やしていたのでは、トータルでは大赤字なんですが…。公立保育所を廃止して母親に直接103万円を支給する方が、何倍も安くつきますよね。ホリエモンが「社会全体の富を食いつぶしている負の労働」と呼んでいるものが、意外なところにもあるのだなと気付きました。関連記事:
少し前に ホリエモンのブログに面白い記事 がありました。 農業革命で人々は飢えることからある程度開放された。 産業革命で人々は労働時間からある程度開放され、余暇の時間を持つことができるようになった。 実は、多くの人はもう働かなくてもよくなった状態にあるのかもしれない。 でも働かな...
当初は積立方式で始まった公的年金制度が、現在の賦課方式になった経緯について。
自民党政権下の1970年代に始まった年金受給額引き上げ、低保険料率の維持といった無計画な大盤振る舞いによって、見る見るうちに積立金は取り崩され(あるいは、本来あるべき積立金が積み上がらず)、子や孫たちに老後の生活費をまかなってもらうという自転車操業の賦課方式に陥ったのである。そんなに昔のことだったのですね。当時の有権者ではなかった人は(私も含めて)みんな、そんな失策のツケを払わされるのは勘弁してほしいと思うはずです。
これは後世に語り継がれる民主主義の大失敗事例になるんじゃないでしょうか。市場の失敗よりはるかにたちが悪いです。40年経っても失敗から立ち直るどころか、状況は悪化の一途をたどっていますから。
本書では政府の財政破綻にも触れています。
「日本の社会保障制度は、将来への借金に依存して実施されている」ということである。そうです。負担を将来の納税者に先送りすることで、増税や保険料の値上げをとりあえず回避しているだけです。
政治的に最もありうるシナリオは、内閣交代があったとはいえ、「借金による社会保障費再膨張路線」が今後も続くということである。考えるだけで恐ろしいですね。
(中略)
我々はいつまで財政赤字の膨張を続けることができるのであろうか。現状はどの程度危機的であり、さらに、その先にいったいどのような事態が待っているのであろうか。
この図を見ると、政府債務が歴史的な最高水準に達していることがわかります。2010年末には200%を超えると予想されています。
真ん中のピークは終戦直前の1944年で、199.1%だったそうです。
戦後の大インフレーションによって国債の価格が急落して、事実上、国債が償還されてしまったという様子がはっきりとグラフに現れています。
当時、国債や銀行預金を保有していた人々にとってはまさに悪夢であったに違いないが、そうした犠牲の上に、戦後の復興は成り立っていたのである。同じような文章が未来のWikipediaに載ることにならなければいいのですが…。
債務比率を見る限り、再び大戦争を始めたかのようである。という表現も大げさとは思えません。
ですが、著者の予想では戦後のような国債の大暴落という最悪のシナリオではなく、
一番起こりうる可能性は、現在のギリシャのようにIMFが緊急融資を行うということである。自分が高齢者になった瞬間にこれが起こるのが、むしろ最悪のシナリオに見えます。国債大暴落で焼け野原からの復興シナリオのほうがまだマシです。
こうなると、まさにギリシャで起きているように、IMFによって、急激な財政改革を迫られることになるだろう。社会保障分野においては、医療費や介護費の大幅削減はもちろん、ギリシャのように年金給付額も大幅カットを迫られるに違いない。社会保障の各業界団体も、既得権を剥奪されて改革を迫られる。消費税や保険料も大幅に引き上げられる可能性が高い。当然ながら、この時点の高齢者たちは逃げ切れない。
いずれにしても、現在40代以下の人は、現行の大盤振る舞いな社会保障制度を維持したまま老後を迎えられるとは考えない方がいいでしょう。私がリタイア後の資金計画に年金受給額を一切含めていないのは、このためです。
参考記事:
「強い社会保障」という偽善 - 『社会保障の「不都合な真実」』 : アゴラ - ライブドアブログ
鈴木亘(2010.7)『社会保障の「不都合な真実」』日本経済新聞出版社: 乙川乙彦の投資日記