2019年5月10日

企業や国に負担させるとコストがタダになるという錯覚

九条さんのブログより。
『人生100年時代の年金戦略』を読みました。年金というと、「2階建て」がどうだとか制度の仕組みの話が多く、結局よくわからないことが多かったのですが、本書はなかなか分かりやすく、良書でした。
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保険では、「事故」が起きたときに保険金が払われます。年金における事故の1番目は「長生き」
だから、年金が得だとか損だとか考えるのは本来おかしくて、長生きしてしまった場合に備えて保険料を払うというのが基本スタンスとなります。
「年金が得だとか損だとか考える」のはべつにおかしくないと思います。たとえば自動車保険を選ぶとき、コストと補償内容を見てどの商品が得か考えますよね。長生きに備える保険でそれをするのはおかしい、とか言い出す人のロジックがわかりません。

まさかとは思いますが、保険商品はすべて期待リターンがマイナスでどうせ「損」するに決まっているのだから、年金の期待リターンなど気にする必要はない、的なことが書いてあったりしませんでしたか。その手の単純なデジタル論法で公的年金最大の欠陥である世代間格差を有耶無耶にしようとする人が少なくないようですが、そもそも論点がズレています。関連記事:
菟道りんたろうさんのブログより。 公的年金について“損得勘定”で論じることから卒業したい 個人投資家の視点から投資信託やETFを使った国際分散投資についての考察と実践方法を研究するブログです。 arts-investment.blogspot.jp 公的年金制度について議論する...
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筆者は何度も「年金は基本的にはお得な制度」と繰り返します。それはなぜでしょう?
国民年金は、財源の半分が税金でまかなわれていますし、厚生年金は保険料の半分を会社が負担しています。ともに自分が出している保険料は半分だからこそ、その数倍の金額がもらえるのです。
そう、iDeCoのような私的な年金と違い、厚生年金の半分は企業が負担しますし、国民年金の半分は税金から出てきます。半分しか負担しないわけですから、それはお得になるに決まっています。
この論法も本当に嫌というほど頻繁に見聞きしますが、「自分が直接払っていないコストはすべてタダである」という壮大な錯覚をしているのではないでしょうか。

「半分は会社が負担」していても、それは本来あなたが受け取るはずだった給与の中から出ているのでタダではありません。それだけでなく、会社に負担させた社会保険料は物価に上乗せされ、消費者としてもそれを負担しています。ステルス税なのではっきり見えないだけです。

「半分は税金から」出ていても、それは本来あなたの手元に残っていたはずのお金を徴税したものなのでタダではありません。これははっきり見える税なので、自分が払った税金のうちいくらが年金のコストなのかはざっくり計算できそうです。それに2を掛けたものが本来のコストです。現在の税収で賄いきれていない分は、国債で将来の納税者へ先送りしているからです。ここでもやはり、先行世代が将来世代から搾取する構造になっています。

そういう隠れコストをどんどん加算していってもまだ、「お得になるに決まっています」と言っていられるのかどうか、よく考えたほうがいいでしょう。

以前の記事にも書いた通り、受益は見えやすく強調する一方で負担は見えにくく曖昧にすることで誰もが得する夢の制度であると国民を錯覚させるのが、公営社会保障制度設計における常套手段なのです。

東大卒のエリート官僚たちが施した迷彩が巧妙すぎて初見で錯覚してしまうのは仕方ないにしても、国や政府というものの本質さえ知っていれば、誰もが得をする社会保障制度に囲まれたユートピアなどあるわけがないと悟ることも、決して難しいことではないと思います。

参考ツイート:
関連記事:
日経の記事より。 国民年金は誰が負担? 半分は税金、保険料未納なら損|マネー研究所|NIKKEI STYLE  20歳になると年金制度の対象になりますが、国民年金保険料の納付率は6割強にとどまります。厚生労働省の「国民年金被保険者実態調査」によると、滞納理由で多いのは「保険料が高...
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