近藤 検診によるがんの早期発見は、患者にとって全く意味がないです。それどころか、必要のない手術で臓器を傷つけたり取ってしまうことで身体に負担を与えますから、命を縮めます。「全く意味がない」はさすがに極論かなと思いますけど、がんは早期発見さえできれば助かるという刷り込みから解放されるには、これぐらいのことを言う医師がいたほうがいいのかもしれません。
中村 これまで、70歳前後の有名人が何人も、よせばいいのに人間ドックを受けたためにがんが見つかり、目いっぱいの血みどろの闘いを挑んだ末に、玉砕して果ててますよね。がんと闘うという賭けに出て負けたのは結果論でしかないので、どんな場合でも賭けに出るべきじゃないとは言えませんが、相当に不利な賭けだなという印象を受けますね。
一般人よりも充実した人生を送ってきたはずの有名人でさえ、それぐらいの歳になってもまだQoLを犠牲にしてまで余命を延長する賭けに出るのが不思議でしょうがないです。もし私が70歳でこんな悪あがきをしたくなるほどこの世に未練があるのだとしたら、残念ながら私の人生は失敗だったということになります。
近藤 がんには、見た目は同じでも「早い段階でさまざまな臓器に転移し、命を奪う本物のがん」と「転移しない、命にも支障のないがんもどき」があります。これが検診無意味の理由です。
(中略)つまり本物のがんは、早い段階で多数の臓器に転移している。だから、検診で見つかってから標準治療(外科手術、放射線、抗がん剤)をしても治りません。
ここも「治りません」は極論で、中には治るケースもあるでしょう。
しかし私は結果がどうなるかよりも、がんの標準治療はどれもQoLを著しく下げるということが大問題だと思います。このトレードオフを勘案せずに治療を選択する愚だけは避けたいところです。
ひとつ覚えておくといいのは「痛い、苦しい」など、日常生活で不便を感じる症状がなく、検査や人間ドックや会社の検診などで見つかるがんはほとんど、がんもどきだということです。がんもどきであれば放っておいても命に支障はないので、結局、会社員時代に毎年受けていた健康診断っていったい何だったんだろうということになりますね。
近藤 CT装置(人体にエックス線をあて、輪切り画像をコンピュータ上に展開する装置)の台数は、日本がダンゼン世界のトップ。CT検査による被ばく線量も、検査が原因の発がん死亡率も世界一です。このように検査が原因で死亡するリスクもあるのですが、ほとんど認知されていませんね。がんが怖いというイメージは必要以上に刷り込まれてますけど。
(中略)
日本で行われているCT検査の8~9割は、必要のないものです。
中村 日本人は「後期高齢者」と呼ばれるのをイヤがるように、老いや病から目をそむけて、その先にある「死」を異常なものとして、見ないように、考えないようにしている。やれやれ。いくつになっても生に執着するのが人間の性なんでしょうかね~。
検診も「がんと言われたらこうしよう」じゃなくて、とりあえず健康証明がほしいからいろいろ受けている。「生きる」ことしか考えていない年寄りが多いです。
近藤 みんな「老化だから仕方ない」と言われたくなくて、「病気だからこうしたらいいですよ」と言ってほしい。年を取ったら、腰が痛い、肩が痛い、足が痛いっていうのは当たり前で、それを全部よくしてくれって望むから、変なことになる。老いるということは、こういうことなんですね。
中村 年のせいっていうのを認めたがらないですよね。医者のところまで来て「年のせい」と言われたくない(笑)。「そんなことはわかってる」「わかってるなら来るな」ってケンカになっちゃいますから。
やっぱり病院は、ホイホイ行くところじゃないですよ。みんな、どんな病気で来てるかわからないんだから、軽い病気で行って、重い病気をおみやげにもらって帰ることって十分あるから。本来“いのちがけ”で行くところなんですよ。
老化は20代から既に始まっているとはいえ、実際に老いを顕著に感じ始めるのは老眼、頭髪の変化、肌のシワ、体力の衰え、が着実に進行する40代あたりになるのではないでしょうか。私が今まさにそれらを実感しています。これが老化というものか! みたいな(苦笑)。
この老化の延長線上に今の老人たちがいるのかと思うと、彼らの悩み、苦しみは十分想像できます。今の私でさえ、これ以上小さい文字が読めなくなるなんて、これ以上階段登りがしんどくなるなんて、これ以上髪の毛が(以下略 etc.
ちょっと信じたくない、こんな老いた姿は自分ではない、と思いたくなりますからね。
気持ちは分かるのですが、その感情の赴くままに振る舞い、医者にないものねだりをする老人は正直言って醜いし、そういう老い方だけはしたくない反面教師だなと思います。
(つづく)
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