ネット漬けの日々を送っているという著者が、インターネットの理想論ではなく現実論を、しかもダークサイドに焦点を絞って語る本です。このように挑発的なタイトルで釣るあたりは、流石にニュースサイトの編集で飯を食っているだけのことはあるなと。これは皮肉ではありません。
現在、私はとあるニュースサイトの編集者をフリーランスでやっている関係で、ネット漬けの毎日を送っている。何がネットでウケて、何がウケないか、どんなことをすれば叩かれ、どんなことをすればホメてもらえるか、そんなことをいつも考えている。
何だか大変そうな仕事ですね。顔の見えないネットユーザーの顔色を窺うというのは。
私たち運営当事者が相手にしているのは、善良なユーザーがほとんどではあるものの、「荒らし」行為をする人や、他者のひどい悪口を書く人や、やたらとクレームを言ってくる「怖いユーザー」や、「何を考えているかわからない人」「とにかく文句を言いたい人」「私たちを毛嫌いしている人」も数多い。
いや、暴言を吐いてしまうと、「バカ」も多いのである。
その通りです。ただし、ここで「バカ」とひとくくりにして呼んでいるのは「頭が悪い人」というよりは、「自分に何らかの害を及ぼしそうな人」という感じでしょうか。
リアルの世界がそうであるように、ネット上にも各種の「バカ」を含む多様な人々が存在するのは当然と言えるでしょう。
そして、タチの悪いことに、この「バカ」の発言力がネット上では実に強いのである。
これもある意味当たってます。
ネットはフラットな世界であり、「バカ」もそうでない人も匿名で自由な発言ができるため、リアルの世界では自制していた「バカ」が急に目立ち始めたと見るのが妥当ではないかと。
悲しい話だが、ネットに接する人は、ネットユーザーを完全なる「善」と捉えないほうがいい。集合知のすばらしさがネットの特徴として語られているが、せっせとネットに書き込みをする人々のなかには凡庸な人も多数含まれる。というか、そちらのほうが多いため、「集合愚」のほうが私にはしっくりくるし、インターネットというツールを手に入れたことによって、人間の能力が突然変異のごとく向上し、すばらしいアイディアを生み出すと考えるのは、あまりに早計ではないか?
完全なる善とか突然変異とか、そこまで楽観的に捉えている人はいないような気が・・・。
集合愚が生まれる場合もあることは否定はしませんが、集合知との二者択一というわけでもないでしょうし。
・ネットはプロの物書きや企業にとって、もっとも発言に自由度がない場所である
・ネットが自由な発言の場だと考えられる人は、失うものがない人だけである
あたらずといえども遠からず。
プロの物書きであるが故に自由に発言できないというのは何とも皮肉ですが、プロが書いた記事よりも個人のブログのほうが断然面白いという傾向と見事に一致しています。
そうこうしているうちに、男性からは「韓国を叩く件はどうなったか?」という連絡が入るようになり、そこで私はもはや「双方向」を諦めた。「Web2.0」とやらはあくまでも頭の良い人のための概念であると結論づけ、コメント欄をあまり見ないようにすることにして、携帯電話番号の公開もやめたのである。
ここで著者が諦めたと言う「双方向」とは、読者との直接的な質疑応答やコメントのやりとり、すなわち「キャッチボール」を意味しているようですが、本来のインターネットの双方向性というのはそのような狭い概念ではなく、リンクやトラックバックなども含む広い概念です。単に「キャッチボール」ができないケースがあるからといって、「双方向」そのものに問題があって機能していないかのように言うべきではないでしょう。
・全員を満足させられるコンテンツなどありえない
価値観の多様性を考えればそんなことは当たり前だと思うのですが、自ら様々な苦労を重ねた上での結論には重みがありますし、プロの物書きの悲哀すら感じます。
ここで、ネットでうまくいくための結論を5つ述べる。(略)
2. ネガティブな書き込みをスルーする耐性が必要
この適性は絶対に必要ですね。これがないためにちょっと炎上しただけで閉鎖してしまったり、内容が無難すぎてつまらなくなってしまうブログがあったりすると、もったいないなあと思います。
基本的に「ネット世論は怖い」と大企業の人は思っているようだ。
それでいて、「これからはWeb2.0の時代ですなぁ、ガハハ」などと言うのだ。
(中略)
だが、ネットの書き込みを恐れている人間が、「これからはWeb2.0の時代ですなぁ、ガハハ」などと言うのは噴飯モノである。もし本気で「これからはWeb2.0の時代ですなぁ、ガハハ」と言いたいのであれば、その前にWeb1.374ぐらいは身につけろ、と言いたい。
Web1.374とは今ここで思いついた適当な数字でしかないが、「ネットの書き込みに対する耐性をつけ、スルー力を身につけるレベル」ということである。
同感です。
もう私は結論づけているが、ネットでいくらキレイなことをやっても消費者は見向きもしない。
(中略)
ネットでは、身近で突っ込みどころがあったり、どこかエロくて、バカみたいで、安っぽい企画こそ支持を得られるのだ。
(中略)
これを言うと企業の人は、「ネットってバカみたいじゃないか!」と驚く。だが、「はい、バカみたいなんです。そういうものなんです。人々の正直な欲求がドロドロと蠢いている場所なんです。(略)」と答えることにしている。
これも同感。
要はネットだからといって(良くも悪くも)特別視するのではなく、リアルの世界と同じと思っていればいいのです。
第5章では「ネットはあなたの人生をなにも変えない」と題して持論を展開していますが、やや言い過ぎという印象です。
ネットよりも電話のほうがすごい
ネットよりも新幹線のほうがすごい
異議あり。
新幹線なんか無くたって在来線があるし、今は電話がなくなってもネットで代用できるけど、ネットが無くなったら代替手段はありません。
故にネットのほうがすごいと思います。