けっこうな人気本のようですが、
資産がマイナスかもしくはゼロに近い状況にあり、このままではいけないと感じている「お金の問題児」である(かもしれない)あなたといっしょになって家計を立て直し、貯金をするための実践的なアドバイスをお伝えしたいのです。
と書かれているように、「お金の問題児」ではない人にとっては既に知っている当たり前の話や、使う機会のなさそうなノウハウがほとんどだと思います。
お金を貯めるには、絶対に揺らがない理論上のゴールデンルール(絶対法則)があります。入ってきたものをなるべく多く残す。つまり「稼いだお金は極力使わない」という単純なルールです。
その通りで、本書ではここに焦点を絞っている点は良いと思います。
当ブログ的に「早期リタイアのためにお金を貯める」という観点で付け加えるなら、資産を増やすための方法としてよく出てくる、収入を増やすことや運用利回りを上げることに比べて、支出を抑えることは地味ながら最も重要なことなのです。というのは、支出が少なければ少ないほど、お金が貯まる速度が速くなる上に、リタイアに必要な資産額も少なくて済む(関連記事:
早期リタイアの判断基準)という二重の効果があるからです。一石二鳥とはまさにこのことです。
早期リタイアを志向するなら、副業や資産運用のことを考えるよりも、支出の少ない生活を心がけることが最優先です。
上手に貯められるのは「大らかで何でも楽しめる人」。
・自分なりの目的を持って、無理をしない。
・淡々として、激しく落ち込んだりしない。
・節約を楽しんでいる。
・うまくいかなくても言い訳しない。
これ、けっこう当たっているような気がしますね。
『超簡単 お金の運用術』の「大らかな合理主義」と似ているところがあるかもしれません。
貯められる仕組みづくりが大切なのです。
苦労をしなくても自動的に、結果に一喜一憂せず、淡々と。気がついたら、着実に貯まっている。
だから、どんな性格の人でも貯められる、それが仕組みの威力です。
という流れで「90日プログラム」なるものが紹介されているわけですが、こんな面倒な仕組みに従うなら十分「苦労」しているうちに入るんじゃないかな、というのが正直な感想です。元々貯められる性格の人なら人為的に仕組みを作り込まなくても自然に貯まるんですよね。鋭敏な金銭感覚そのものが天然の仕組みとして無意識に働いているからだと思います。
たとえば、
最近の家計では、携帯電話代が、手取り収入の1割近くを占めている人が少なくありません。たとえば家族3人で3台所有、総額2万5000円。1人で1台所有、1万7000円など。
などの例を見ても、元をたどれば結局は「金銭感覚が鈍い」の一言で一蹴されるレベルの話ですよ。金銭感覚というのは後天的に形成されるものだと思いますが、一度鈍くなってしまった感覚を鋭敏にせよと言っても、なかなかできるものではないという気がします。
本書で明らかに間違っているのはクレジットカードについてのアドバイス。
まず冒頭の「貯金力チェックテスト」項目の一つに
□クレジットカードが使える場面では、現金は使わず迷わずカード払い。
があり、チェックを入れると減点されます…。さらに、
最近は、ポイントが貯まるから、支払い手数料(金利)がかからないからと、現金があってもクレジットカードで払う人が増えました。しかし、使わないことによるおトクさのほうが総合的に見て必ずや上回ります。損得でいうと、断然勝ちです。
などと書いてあります。
いえいえ、そんなことはありません。逆です。現金主義は損をします。
店側が負担するクレジットカード手数料は価格に転嫁されて実質的には消費者が負担しているので、その負担がない「現金決済のみで安い店」で買うと得をする、という話ならわかるんですけどね。本書で得だと言っているのは「クレジットカードが使える店なのに敢えて現金で払う」ことなので、これは明らかに誤りです。現金で払っても還元率はゼロ、おまけに他人のカード決済で発生する手数料の一部まで負担していることになりますから。
スーパーに食品を買いに行ったBさん。お財布を見ると手持ちが3000円しかありません。でもクレジットカードはあります。カードがなければ2000円ぐらいですますのですが、カードがあるので結局4500円も買い物をしてしまいました。
という例も一見ありそうな話ではありますが、私にはかなり奇妙に見えます。どの食品を買う必要があるか判断するのに、クレジットカードを持っているかどうかは関係ないはずでは?
決済手段が何であれ、必要なものを必要なときに買うのが正しい行動であることに違いはありません。決済手段が変わると必要なものの範囲が変わる、などということはあり得ないです。
本当は4500円分の食品を買う必要があったのにカードがないからといって2000円分しか買わないのも、本当は2000円分しか必要でなかったのにカードを持っているからといって4500円分買うのも、どちらもまったく合理的な行動ではありません。Bさんは、有利な決済手段の選択というレベルよりもはるかに重要な、経済合理的に行動するということができない悪い見本のような人だと思います。