2012年3月4日

『自分のアタマで考えよう』 ちきりん (著)



御本人の紹介記事はこちら:『自分のアタマで考えよう』内容紹介(叱られたからやり直し!) - Chikirinの日記

前著の『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』は、ブログから抜粋、焼き直した本でしたが、本書は書き下ろしですから初めて目にする内容がほとんどでした。

この本に書いたのは、そんな「ちきりん独自の視点」を生み出す源となっている「思考の方法論」です。
一言で言えば、すごく「真面目な」内容です。
紹介されている具体的な思考の技術の多くは知らなかったので勉強になりました。しかし、読んでいて今ひとつ興味がそそられなかったのも事実です。現役時代ならともかく、こういった技術を総動員して何かを真面目に効率的に考える機会は、今後の人生でそうあるものではないような気がしたので。

①知識は思考の棚の中に整理すること
②空いている棚に入るべき、まだ手に入っていない知識を常に意識すること
③それらの知識が手に入れば言えるようになることを、事前に考えておくこと
これが、ちきりんが考える「知識と思考の、理想的なカンケイ」なのです。
確かに理想的なんでしょうけど、なんか型にハマり過ぎというか、敷居が高く感じるんですよね。

知識の吸収はもっと自由に、整理整頓とか何も考えずにやっていいと思うんですよ。それこそWikipediaサーフィンでも本の乱読でも、何の目的もなく浴びるようにやるのも面白いんじゃないでしょうか。

2011年12月17日

『Bライフ―10万円で家を建てて生活する』 高村 友也 (著)



Bライフ研究所が書籍化されたものらしいのですが、このサイトはあまり読んでいなかった私にとっては、非常に新鮮な内容でした。

著者の毎月の生活費は2万円程度。Bライフ研究所 ≫ お財布に内訳が書かれています。
年に25万円も稼げば、最低限生きていける。
生活コストを下げるといっても、ホームレスにでもならない限り日本ではせいぜい年100万円程度が限界だろうというのは、根拠のない思い込みだったことを思い知らされます。
豊かな国・時代であえて低い生活水準を保つことで、周囲との間に局所的な貨幣価値の格差を生み出すのが、Bライフの旨みとも言える。賃貸暮らしの人が「一日働いてたった8000円か……」と嘆いている一方、Bライフでは「一日8000円ももらっちゃっていいの?」ということになる。
素晴らしい発想力ですね。
実際に彼の生活を真似するかどうかは別として、いざとなればここまで生活コストを落とす余地があることを知るだけで、心に余裕が生まれる人も多いと思います。

たくさん金を稼いでなるべく栄養のあるものを食べれば何かいいことがあるという盲信を捨てさえすれば、あとは個人の自由、食べるもよし、控えるもよし。
(中略)
月10000円の食費があれば生命史上稀に見る高水準の食事が摂れるし、安物のカセットコンロ一つあれば死なないどころか大抵のものは作れる。
食費は普通の住居に住んでいても変わらないところなので、なんでそんなに安くできるのかさっぱりわからないという人には一読の価値ありだと思います。

畑は、何の知識もない筆者にとっては、コーラと同じ嗜好品、楽しみのための贅沢品である。楽しみのための贅沢品が肥大化して、義務としてのしかかってきて、愛しいミニマムライフが壊されるようなことになっては、元も子もない。
同感です。
それに、高度に分業が進んだ現代では、自給自足的な生活に近付けば近付くほど生産性が下がりますからね。ああいう生活は趣味の領域だと割り切るのが良さそうです。

寝たいときに寝て、起きたいときに起きる。この「自由な睡眠」が可能な時点で、上質な睡眠はほとんど保証されているようなものだ。(中略)
規則正しい生活が肉体的健康や精神的健康に良いというのはでたらめで、せいぜいいえるのは、規則正しい社会生活には、規則正しい家庭生活が必要である、この程度だろう。むしろ、目的がなんにせよ、朝目覚まし時計の不快音で起こされることほどその日一日の体調と気分を台無しにすることはない。(中略)
短眠がいいとかたっぷり寝たほうがいいとか、朝型がどうとか夜型がどうとか、そうしたご高説を全て吹き飛ばすだけの破壊力を、自由な睡眠は持っている。いつどれだけ寝るべきかは、体が一番よく知っているわけで、それに従えばいいだけである。
まったく同感です。
同じことが食事にも言えますね。
食欲の有無に関係なく、決まった時間に1日3食ずつ、規則正しく食べる必要がどこにあるんだろうかと、常々疑問に思っています。

超低コストのBライフは早期リタイアとの相性が抜群に良い、というのも面白い点です。
たとえば月20000円のBライフを30歳から65歳まで続けるとして、世間ではワーキングプアと呼ばれるであろう年収96万円の仕事をしているだけで、なんと39歳でリタイア可能になるようです。(p.163の表a)

屋根と壁さえあれば暖かく寝られるのに、日本では現代技術の粋を集めた超高級家屋しか売っておらず、それらを買うための借金によって最悪の場合おちおち寝ていられなくなる。この本末転倒とでも言うべき事態が出発点だった。
不必要に高性能で高価なものしかなく、消費者に選択の自由がないというのは、家だけでなく日本社会に共通の問題ですね。
ちきりんさんのこの記事に書いてあることを思い出しました。
“格安生活圏”背景解説 - Chikirinの日記
この国ではすべてが不必要にオーバースペックになっているために、無用に最低生活コストが高くなっている。それが多くの低収入者層を苦しめているし、社会福祉費の増大にもつながっている、と。

先日来どこかのブログで話題になっていた「日本は高機能で高価格の家電ばかり」というのと同じで、オーバースペックというのはこの国の大きな特徴です。


日本は低所得者に優しい税金・社会保障制度なので、ありがたく利用させていただく。
その通りです。
逆に言えば、高所得者が虐げられる国でもあります。しかもそれが当然だと思っている国民が多すぎるように思います。(参考記事:「小さな政府」を語ろう : 当たり前の話 金持ちこそが我々を豊かにする

では、その自由であなたは何を生み出したのか、芸術か、発明か、科学技術か、と問われるかもしれないが、「……のための自由」なんて語義矛盾も甚だしい。何も生み出す必要などない。ただ生きて、意識があって、自由に考えることができればそれでいい。自由は何かのための道具ではなく、おそらく誰もが知っている単純な欲求である。誰が決めたか知らないが理不尽にハードルの高い、普通の人として存在するための思考様式の最低条件から解放されて、足枷無く物事を考えたい、精神的に身軽でいたいという気持ちである。
そうそう、これです。この気持ちです。何かやりたいことがあるわけでもないのに自由な時間が欲しくなるのは。
この一節の文章に出会えただけでも本書を読んだ価値がありました。

2011年12月16日

『あなたが投資のプロからカモにされる理由』 小林 幹男 (著)



著者自身が「投資のプロ」であり、
もちろん、これも「小林幹男」という人間のポジショントークなので、これをどう受け取るかはあなた次第である。
と正直に述べている通り、いかにも「投資のプロ」的なバイアスのかかったポジショントーク満載で、個人投資家として共感できることが少ない本でした。

p.64
不況時代に唯一勝てる投資とは「カラ売り」をおいてほかにないのだ。
序盤でこんな強烈パンチを繰り出されたら、著者を信用できなくなります。一気に読む気がなくなり、残りは斜め読みでした。

唯一共感できたのが官製不況の話。
日本経済はこれからどんどん悪化していく。
「二番底」などと呼ばれているが、そんな甘っちょろい話ではない。なぜなら、この不況は市況や外的要因はまったく関係のない構造的な欠陥、「官」による法の不備によって引き起こされたものだからだ。
具体的には、2006年の貸金業法と2007年の建築基準法の改悪を指しています。この国お得意の規制強化なので、法の不備と言うよりも法の過剰と言ったほうがいいかもしれません。

官が規制でがんじがらめにして民の活力を奪う構造は健在で、むしろ強化されています。こんなんで景気回復もなにもないだろうと思います。

2011年11月30日

『やりくり上手な賢い夫婦、お金が残らない残念な夫婦 ~なぜ、夫婦で年収800万でもお金が足りなくなるのか?』 中桐 啓貴 (著)  その3



昨日の記事の続きです。

第6章 あこがれの早期リタイアをリアルに思い描く
1 経済的自由を手に入れる
(中略)
残りの人生、お金の心配が一切ない状態で暮らせる体制が整ったという意味です。より専門的に言えば、仕事をしなくても保有資産からの収入が支出を継続的に上回り、資産が膨張していく状態のことです。
これが本書における早期リタイア可能な状態の定義のようですが、無駄にハードルが高いと感じます。

資産の膨張が必要なのは人生の前半だけで、後半は資産が減少に転じるように計画するのが合理的です。関連記事:
前回の記事 とよく似たことが書かれている記事がありました。 誠 Biz.ID:結果を出して定時に帰る時短仕事術:人生の前半では時間を売り、後半では時間を買う : 年を重ねてアルバイトをやったり、就職して会社に入ると、少しずつ自分が管理できるお金が増えていきます。結婚や家を買う、子...
yumin4.blogspot.jp


仕事を辞めても資産が膨張し続けるのなら資産の貯めすぎです。

仮にまだ資産を増やす段階にいるとしても、「継続的に」資産が増える必要はありません。リスク資産の価値は増えたり減ったりを繰り返すものです。人はこのような価格変動を必要以上に避けようとしてインカムゲイン偏重の罠にハマる習性があります。

著者も資産からの「収入」と表現している時点で、インカムゲイン偏重の罠にハマっているような印象を受けましたが、次のような事例を肯定的に紹介しているのを見て、それが確信に変わりました。
「ちょっと前に、グローバル・ソブリンというファンドを300万円分買ったのよ。銀行の女の子から電話がかかってきて、普通預金に置いていても利息もつかないので、分配金が毎月40円出る投資信託を買いませんかって言うもんだから。」
他の3人は投資にはまったく詳しくないものの、分配金という言葉に興味津々です。
「じゃあ300万円だけと思って買ってみたら、それから毎月1万5000円が分配金として振り込まれてくるのよ。平日のゴルフ2回分は賄えるし、本当に助かるわ」
よりによってグロソブとは…。
この事例の人は完璧な反面教師です。このような投資行動の問題点をきちんと解説してくれるのが本物のFPだと思うのですが。

参考記事: なかなか聞けないお金への思い:やりくり上手な賢い夫婦、お金が残らない残念な夫婦 ~なぜ、夫婦で年収800万でもお金が足りなくなるのか?:本読みの記録:So-netブログ

2011年11月29日

『やりくり上手な賢い夫婦、お金が残らない残念な夫婦 ~なぜ、夫婦で年収800万でもお金が足りなくなるのか?』 中桐 啓貴 (著)  その2



昨日の記事の続きです。

2 不動産投資で一番大切なこと
(中略)
インカムゲインを重視し、極端なキャピタルゲインは望まないことが賢い不動産投資の秘訣です。
まあこれは当たり前というか、土地はともかく建物は時間の経過と共に減価していきますから、キャピタルゲインよりもむしろキャピタルロスが発生するものとして利回りを計算すべきですね。

投資対象が何であれ、
リターン=インカムゲイン+キャピタルゲイン-コスト
という式は共通であり、右辺の3つの要素すべてがリターンを左右します。
どれか1つを重視するのではなく、トータルで考えるという視点が重要だと思います。

3 不動産投資の2つのリスク
(中略)
不動産投資のリスクは主に「空室リスク」、「金利上昇リスク」の2つです。
何の前置きもなしに「金利上昇リスク」が出てきましたが、「ローンで」不動産投資をするという前提になっているようです。しかも変動金利で!
リスク分散の観点から、非常に問題のある投資行動だと思います。

不動産投資には他にも、流動性リスク、災害リスク、家賃滞納リスクなどの重要なリスクがありますが、本書では見事に抜け落ちています。

先ほどの事例のように、物件からの収入がローン支払いを上回っている状態は、投資をするにはいい環境だと思います。
???
いい環境もなにも、その状態が当たり前なんであって、収入がすべてローン支払いに消えてしまう状態ならリターンはマイナスになるじゃないですか…。

こんなことを書くのは一体どんなFPなんだ?と思って調べてみたら、この著者の本を読んだのは二冊目だと気付きました。2年前に読んだのがこの本。
「隠れたお金持ちの法則」と呼ぶのはどうも大げさな気がするので、(長期)投資家としての心構えとでも理解しましょうか。次の10か条を挙げています。 「100万円落ちていますよ」と人から言われても決して拾おうとしない 分散投資によってリスクを想定内にしておくことで、夜はゆっくり眠る ど...
yumin4.blogspot.com
こちらはかなりまともな本だったと思うのですが、今回のはまるで別人のようにツッコミどころの多い内容になっているのが残念です。

(つづく?)