2010年2月19日

『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~』



アマゾンのレビューは異様なほど高評価ですが、いまいちでした。「世界一わかりやすい経済の本」という副題はどう見ても偽りかと。

誰が言った? → マスコミが言った。
ところが本当は
実は「国民年金の未納者の増加」によって「国の年金が破綻する」というわけではなく、基本的には「国民年金の未納者自身が将来、損をする」ことになる
と説きます。

確かに結論としては間違ってはいません。
後者の「未納者自身が将来、損をする」という話は、先日『知的幸福の技術―自由な人生のための40の物語』 その3で引用した「国民年金の保険料を支払うのは、経済的にはかなり合理的な選択なのだ。」という結論とも一致しています。さらに保険料免除を受けるのが最も合理的だというのが私の結論ですが。(関連記事:国民年金免除の損得

前者の「国民年金の未納者の増加によって国の年金が破綻するというわけではな」い理由の一つとして、厚生年金などを含めた公的年金加入者7000万人余りのうち、未納者はわずか300万人余りでしかなく、全体の5%未満であることを挙げています。しかしこれは、問答無用で保険料を強制徴収されている厚生年金加入者など(第二号被保険者)が3900万人もいて、彼らが今後も増えていくであろう未納者だけでなく、1000万人を超える第三号被保険者の分まで保険料を負担し続けていくという隠れた前提があります。本書ではその問題点にまったく触れていないばかりか、
「厚生年金」の場合には、実際に国に払う保険料よりも、国からもらえる年金の方が多くなることは有名です。
それは「厚生年金」の場合は、保険料の半分を会社が払っているので、個人は半分の保険料で済むからです。
このようなおめでたい話が書かれています。
この話が「有名」だというなら、それこそ「誰が言った?」と問うべきでしょう。保険料が労使折半だから得だというのは、物事を表面的にしか見ないことによる典型的な誤りです。
参考記事:金融日記:経済政策を売り歩く人々―エコノミストのセンスとナンセンス、ポール・クルーグマン(著)、伊藤隆敏(翻訳)、北村行伸(翻訳)、妹尾美起(翻訳)

さて現実には、未納者が増えてどんどん厚生年金保険料が高くなっても、国が作った強制徴収という仕組みから逃れることはできない以上、「公的年金制度が破綻することはない」という結論自体は、あくまでも見かけ上は正しいことになります。これは、どんなに国の借金が膨らんでも、債務者である国が国民から税金を強制徴収する権限と通貨発行権を持っている以上「国債がデフォルトすることはない」という結論が正しいこととよく似ています。

他にも、「未納者が増えると、サラリーマンなどの負担が高まることとなる」が間違っている理由として、
そもそも未納者は将来に年金をもらうことができないので、国の年金制度は未納者に対して将来的な負担は生じないのです!
と書いてありますが、「将来的な」負担ではなく「現在の」負担が生じることが問題である、という賦課方式最大の欠点に蓋をした話なので、まったく理由になっていないと思われます。

さらに、
 実は「国民年金」については、2009年度から若者の負担を減らすため、高齢者に支払われる年金の半分は「税金」から支払うようになることが決まっています。
つまり、「国民年金」の個人の保険料の負担は半分で済んでしまうようになるのです。
年金には将来の負担に備えるために約200兆円の「年金積立金」はあるので、その不足ぶんは「年金積立金」を使って高齢者に支払うのです。
と、加入者が直接負担する保険料にしわ寄せがいくわけではないと説いていますが、その「税金」や「年金積立金」は一体誰が負担しているのでしょう? もちろん我々国民自身が負担しています。賦課方式の年金制度である以上、未納者自身以外の誰一人として不利益を被らないなどという魔法のような方法が存在するわけがないのです。

本書の序盤で「情報の本質を見抜く思考力」の重要性を力説している割には、著者自身が簡単に見かけに騙されているような気がしてなりません。

参考記事:乙川乙彦の投資日記: 細野真宏(2009.2)『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』(扶桑社新書)扶桑社

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