2013年12月29日

『企業が「帝国化」する』 松井博 (著) その2



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ではなぜ「帝国」はこんなにもさまざまな国籍の人材を雇い入れるのでしょうか?
その要因としてはこれらの企業が自らを特定の国家に属する組織だと思っていないことが挙げられるでしょう。例えばアップルには、自分たち自身を国家を超えた「超国家的組織」と考えているような節がありました。アメリカという特定の国家に対する帰属意識が驚くほど低いのです。
わかります。
最近、日本企業、アメリカ企業、といった呼び方を古めかしく感じます。現行の法律上仕方がないので国別に登記された法人の集合体という形をとっているものの、グローバル企業の実態は文字通りひとつの「地球企業」と呼ぶにふさわしいものです。

アップルは製品だけでなく、租税回避にさえも創造性を発揮しています。例えばアップルは、税率の高い国(アイルランドなど)の営業スタッフが低税率の国(カリブ海の無税の国)にある会社の代理販売を行っているという形をとることにより、税率が高い国での法人所得税を回避するメカニズムを考えた最初のハイテク企業と言われています。
グローバル企業が様々なテクニックを駆使して税コストを最小化している事実は、皮肉なことにそれを批判的に報道するメディアによって有名になったようですね。最近では、スターバックスがイギリスに、アマゾンが日本に法人税を一銭も払っていない件は、かなり騒がれた印象があります。

たしかに法人税を搾り取れない国家にとって大変おもしろくない事態であることはわかります。でもなぜ、公務員ですらない一般市民が大騒ぎして「税金払え」と叫びながら不買運動までやるのか、私にはわかりません。
一人の消費者としては、企業がどの国にいくら法人税を払っているかなどどうでも良いことです。同じ商品なら1円でも安い店を選ぶだけのこと。企業に税金を余分に払わせたところで商品が安くなるわけじゃなし。

一人の投資家としては、税コストを最小化して利益を最大化する企業の方が優れていることは言うまでもありません。アマゾンやグーグルの株価がとんでもない高値になっているのは、彼らが税コストを最小化する努力をしていることと無関係ではないと思います。世界中の企業の間接的な株主でもあるインデックス投資家として、そのような企業が増えることは大歓迎です。

 これまでお読みいただいたとおり、極めて強力な企業が「帝国」と呼ぶのにふさわしい影響力を持ち、ロビー活動によって影響力を増大させ、消費者を餌付けし、雇用の流出や、仕事の自動化による中間層の没落を引き起こしています。
 本来ならばそういったことが起きないように監視するはずの政府はあまり当てにならない状態です。そうした現状を踏まえ、私達は自分たちで、こういった「帝国たちとの賢い付き合い方」について考えてみる必要があるのではないかと思います。
結論には賛成です。
しかし、「監視するはずの政府」と書いてあるのはいただけません。現状でも既に各国の政府、とくに日本国政府はあらゆる企業活動を監視、規制しすぎであり、お上の顔色を伺わないと何もできない国の一つです。経済活動への政府の介入、干渉は極限まで小さくすべきです。

現在の20代の若者が高齢者になったときに年金が維持されている可能性など、かけらほどもないでしょう。国民健康保険の維持すら厳しくなり、健康保険の民間化が急速に進むのではないかと私は考えています。国家による社会保障がない世界はもう目前です。
現行のような欠陥だらけの社会保障制度なら無い方がマシなので、国営の社会保障制度が破綻して民営化されているのであれば、まだ良い方のシナリオかもしれません。現役世代にとって最も恐ろしいのは、このままチマチマと負担増、給付減の改悪を繰り返しつつ破綻が極限まで先延ばしにされるシナリオの方です。ぶっちゃけ、どうせ我々は逃げ切れないのだから、一刻も早く破綻してくれと願っている人も少なくないと思います。

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