2017年11月20日

『預金封鎖に備えよ』 小黒一正 (著)



刺激的なタイトルとは裏腹に、凡庸な内容の本でした。

日本政府の財政破綻は最早避けられない前提のもとで、個人としてはどういった資産防衛策が有効かという話に興味があったのに、政府や日銀目線の金融政策の話が本書の大部分を占めており、期待外れに終わりました。

最後の最後に「資産防衛の決め手は『仮想通貨』か」という見出しのセクションがあり、わずか14ページの中でそれらしい事に触れてはいたものの、ごくありふれた内容でした。

結局、著者は個人レベルでできる資産防衛なんかにはほとんど興味がなくて、マクロな視点で国家の財政再建の方法論を語りたい人なんだと思います。財務省にも勤務した経験のある経済学者だからそういう視点になるのはやむを得ませんが、だったらこんな思わせぶりなタイトルは付けないでほしかったですね。

p.242-243
富裕層ではない多くの若者世代や子育て世代にとって、資産防衛を考えることはあまり意味がありません。しかしながら、今後、いざ財政危機に直面したとき、もっとも被害を受けるのは彼らです。
では座して死を待つしかないのかと言えば、そうでもないのです。今のうちに備えるべきことは、大きく分けて二つあります。
一つは、自分に投資をして能力を高めておくこと。(中略)
そしてもう一つは、しっかり財政再建できるような方向にコミットすることです。社会保障は厚いほうがいいし、税金は安いほうがいい。しかしそれでは、財政が破綻するのは明らかです。そして破綻に至れば、資産も人生設計も大きく毀損するだけです。早くそのことに気づいて、国の選択を注視する必要があります。
語り口は丁寧ですが、要するに「資産防衛なんて無意味な抵抗はせず、みんなで痛みを分かち合って政府の財政再建に協力しましょう」と言ってるだけに見えます。冗談じゃないですね。本書のタイトル『預金封鎖に備えよ』とは、「預金封鎖(を一例とする政府の財政再建策)の痛みを覚悟せよ」という意味だったのかと、ここまで読んでやっとわかった気がします。

財政が「破綻に至れば、資産も人生設計も大きく毀損するだけ」と脅していますが、それは政府に強く依存するポートフォリオや人生設計を選択してきたからそうなるのであって、政府への依存度を十分に下げることができれば、無傷とは言いませんが「大きく毀損」することは避けられるはずです。
参考ツイート:

p.244
限りなく絶望的ではありますが、まだ財政再建の道があるとするならば、それを放棄する手はありません。
著者本人も絶望的だと認識しているのに、まだ望みはあるから覚悟せよとは、酷すぎる話ではありませんか。財政を死守するために終わりの見えない増税に苦しんだ先に、一体どんな希望があると言うのでしょう。このような精神論が蔓延っている状況は終戦直前の日本とそっくりに見えます。

「限りなく絶望的」なら、財政再建など潔く放棄してさっさと破産処理してしまいましょう。

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