2011年3月11日

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘 玲 (著) その2



昨日の記事の続きです。

「日本人はアメリカ人よりも個人主義?」というテーマで、次のような面白い実験が紹介されています。
日本人とアメリカ人の学生がそれぞれ三人一組で参加する。彼らは無意味な単純作業を行ない、チームの三人の合計得点に応じて報酬が平等に分けられる。作業は隔離された小部屋で行なわれ、ほかのチームのメンバーからは、自分が真面目にやっているかさぼっているか知られることはない。
こうした条件でもっとも合理的な行動は、自分だけがさぼって残りの二人に働いてもらうことだ。その一方で、真面目にやってもその努力はほかの二人にも分配されてしまうから、「正直者がバカを見る」ことになる。
そこで実験では、グループから離れ、一人で作業できる選択肢が与えられた。その場合、次のふたつの条件が設定された。

①低コスト条件:参加者は、いかなるペナルティもなくチームから離れることが許された。
②高コスト条件:チームから離れる場合は、受け取る報酬が半額に減らされた。

低コスト条件では、自分が「バカを見ている」とわかれば、アメリカ人も日本人もさっさとチームから離れていく。考えるまでもなく、これは当たり前だ。
一方、高コスト条件では、「バカを見ている」とわかっても、チームを離脱すればいまよりも少ない報酬しか受け取れない。癪に障るが、そのまま搾取される方が合理的な選択なのだ。
このジレンマに直面して、アメリカ人の学生は20回の作業のうち平均1回しか離脱しなかった。それに対して日本人の学生は、損をするとわかっているにもかかわらず、ほぼ8回の作業でチームを離れた。
この実験も、日本人とアメリカ人の次のような顕著なちがいを明らかにしている。

日本人はアメリカ人よりも一匹狼的な行動をとる。
興味深い実験結果ですが、この結論はちょっと違うような気がしました。
アメリカ人は「バカを見ている」という癪に障る状況を我慢してでも経済的に得をすることを選ぶ傾向があるのに対して、日本人は経済合理的に行動するよりも、余分なコストを払ってでも怠け者にペナルティを与えることを好む傾向があることを示しているように思います。

日米の比較では第4章でも「日本人は会社が大嫌いだった」と題して、アメリカ人よりも会社が嫌いな日本人という意外な調査結果が印象に残りました。この調査結果については、次の記事でも読むことができます。
日本人はなぜ自殺するのか? | 橘玲 公式サイト
さまざまな不平不満を抱えながらも会社にしがみついているのは、バブル最盛期も現在も変わらない日本人サラリーマンの平均像だったのです。

第3章「こころを操る方法」では、ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」について、橘氏のハワイでの体験に基づいて紹介されていました。
たとえば「返報性の掟」とは、
「なにかしてもらったらお返しをしなくてはいけない」という人間社会に普遍的な規則・習慣
ですが、このような人間の習性を巧みに利用したマーケティング手法は、驚くほどの成果を上げているようです。消費者としては売り手の罠にハマらないようにしたいものです。
今までに読んだ行動経済学の本には書かれていなかった内容なので、チャルディーニの本を読んでもっと深く知りたくなりました。

宝くじネタも出てきます。
交通事故で死ぬ確率は宝くじの一等に当たる確率の40倍だそうです。ということは、
宝くじを買うひとは、100万分の1の出来事が自分に起こると信じている。だったら、その40倍も確率の高い出来事はもっと強く信じるはずだ。すなわち宝くじに賭けようとするひとは、交通事故で死ぬことを恐れて外出できない……。
たしかに確率を正しく評価すればそうなるはずですよね。宝くじが欲しければ誰かに買ってきてもらうしかありません。
 それでも宝くじ売り場に列をなすのは、ひとが確率を正しく評価できないからだ。認知の歪みによって、よいこと(宝くじに当たって億万長者になる)の確率は大きく、悪いこと(車に轢かれて死んでしまう)の確率は小さく評価されるのだ。
昨日の記事によれば人類はみな心配性のはずでしたが、都合の良いときだけ底抜けの楽天家に変身する不思議な習性も持ち合わせているようです。
この認知の歪みこそが「自分は特別」という妄想を生み出し、うまい儲け話に騙されてしまう元凶だということを覚えておきましょう。

豊かな社会ではお金よりも評判のほうがずっと魅力的になる。
お金は、量が増えるにしたがって魅力がなくなっていく。
(中略)
それに対して評判は、麻薬と同じで、いったん手にしたらもっと欲しくなる(限界効用が逓増する)。それに貯金とちがって、放っておくと時間とともに失われてしまう。お金よりもずっと貴重な資源なのだ。
この評判のことを、哲学者のヘーゲルは「他者の承認」といった。ひとは常に他者の承認を求めて生きている。誰からも認められなければ、どれほどお金があってもぜんぜん幸福ではないのだ。
なるほど。たとえば十分なお金があっても働き続けるのは、他者の承認を獲得、維持するためと考えられますね。
私のように働くのはお金のためと割り切っていて承認欲求が低い人ほど、早期リタイアに向かいやすいと言えそうです。
ぼくたちが他者の評価(承認)を求めるのは、幸福がそこにしかないからだ。
これはちょっと言い過ぎのような…。
評判を獲得すると気持ちいいのは確かですけど、それはあくまでもオプショナルな幸福であって、それが手に入らないと幸福になれないというほどのものではないでしょう。

参考記事:
活かす読書 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法
あつまろのこだわり資産運用 : 金持ち父さんが残酷な世界で生き延びる
橘玲さん、残酷な世界は結局、残酷なのでは? | ホンネの資産運用セミナー
書評: 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 - 橘玲 - Future Insight
残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 ノマドライフ2.0  年収300万円からの資産形成/ウェブリブログ
404 Blog Not Found:To Live is to hack your own life. - 書評 - 残酷な世界を生き延びるたった一つの方法
橘玲「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」は読む価値あり!の一冊 - 内藤忍の公式ブログ SHINOBY'S WORLD
金融日記:残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法、橘玲

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