今は絶版になっているのでしょうか、アマゾンの最安値は4,708円になっています。もちろん私は図書館で借りました。
アイン・ランドはロシア出身のアメリカ人作家で、オブジェクティビズム(客観主義)という聞き慣れない名前の思想を創った人です。
本書では一貫して「客観主義」という訳語を採用していますが、客観主義でググると主に刑法の用語が上位に出てきて紛らわしいので、オブジェクティビズムと呼びます。
オブジェクティビズムは古典的自由主義やリバタリアニズムとの共通点も多く、その部分はすんなり理解できたものの、特に前半に難解なところが多くてかなり読み飛ばしました。
p.183
どんな人間にも、他人に対して、彼や彼女が選択してもいない義務を課す権利などない。報酬のない仕事をさせる権利もなければ、強制的な奉仕を課す権利もない。「他人を奴隷にする権利」などというものはない。p.185
権利というものは、他人による権利の物質的実行、つまり強制というものを含まない。
次のことはきちんと覚えておいていただきたい。権利とは、人間の行動の自由を定義し保護するが、他人に対しては何の義務も強制しない道徳的原則である。自由主義の土台になる重要な定義です。厳密に言うと「何の義務も強制しない」わけではなく、「他者侵害しない義務」や「合意した契約の履行義務」だけは強制します。
アイン・ランドが言う「権利」とはつまり、自由権だけを指していて、それ以外のものを「権利」と呼んで主張したり保護したりすることはできないと言っているようです。
実際に、今の世の中で使われている「権利」や「人権」という言葉の中には、上記の定義を満たしていないものが多くあります。先日ちらっと言及した「社会権」もその一つです。
社会権の代表格である生存権を例に考えてみます。
生存権 - Wikipediaより。
生存権(せいぞんけん、フランス語: droit a la vie、ドイツ語: Recht auf Leben、英語: right to life)とは、人間が人間らしく生きるのに必要な諸条件の確保を、国家に要求する権利[1]。「国家に要求する」とありますが国家の財源は国民に課す税金ですから、「他人に要求する」のと同義です。これは、アイン・ランドが言うところの「他人に対して、彼や彼女が選択してもいない義務を課す」行為に当たります。そんな「権利」などないというアイン・ランドの意見に同意します。
権利の数や種類は多ければ多いほどよいというものではありません。あれもこれも権利だと言って保護を求め始めると必然的に自由権との衝突は避けられなくなりますし、どうやって権利同士を調整するのかという問題が発生し、公権力が介入してくる隙ができます。そしていま日本で現実に起こっていることは、政府が各種社会権の保障(生活保護、健康保険、年金、介護、保育など)を口実にして自由権の侵害を拡大する悪夢のようなシナリオです。
もしシンプルに自由権だけを保障する世の中だったとしたら衝突は起こりません。自由権の中に「他者の自由権を侵害しない」という衝突回避のルールが内包されているからです。権利の衝突がなければ政府が余計な裁量権を持つこともなく、意思に反して個人の財産が奪われることがない理想的な社会になると思います。
関連ツイート:
自由を奪うことを人権という言葉を使って押し通すと必ず問題が生じる。誰かのために別の人の自由を強制的に奪う権利があるというのが間違っているからだね。
— ユキノシバリ (@yukinoshibari) 2017年6月14日
人権というものは、政府に自由を奪われない権利のこと。そうでなければ必ずねじれるよね。
生き方の選択肢を奪ったり、財産の使い道を選ぶ自由を奪ったりすることは、他人の人生を奪う行為だね。
— ユキノシバリ (@yukinoshibari) 2017年6月14日
他人の人生を奪うことのできる人権なんて、そもそもあるはずがないんだよ。
アイン・ランド「私は、個人の生活・生命、財産、自由を多数決で奪うことはできないと信じています」https://t.co/XCzBvm5OQC
— Goldstein (@IakobGoldstein) 2017年5月7日
参考記事:
Ayn Rand, The Virtue of Selfishness : A New Concept of Egoismの邦訳。サンデルブームもあって、日本でも「リバタリアニズム」という言葉がようやく知られるようになった。本書の著者であるアイン・ランドはリバタリアニズムの誕生に多大な貢献をした作家、哲学者として知られる。彼女の徹底した個人主義・自由主義の思想は、直接・間接を問わずノージック、ロスバード、ブロックそしてD・フリードマンといった主要なリバタリアン理論家に圧倒的な影響を与えた。前FRB議長だったアラン・グリーンスパンがランドの忠実な弟子だったのは有名な話だ(「肩をすくめるアラン」)…
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