2017年3月15日

団塊世代が国民年金保険料を多めに払った、って本当?

同じ日経の記事より。
 20歳になると年金制度の対象になりますが、国民年金保険料の納付率は6割強にとどまります。厚生労働省の「国民年金被保険者実態調査」によると、滞納理由で多いのは「保険料が高く、経済的に支払うのが困難」という回答です。保険料は年間で20万円に迫り…
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年金財政には年金積立金という存在もあります。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用し百数十兆円にも上ります。この一部も年金給付に使っています。金額が積み上がったのは「団塊世代が保険料を多めに払ったためで、これがないと現役世代の保険料はもっと上がっていた」との見方があります。
「団塊世代が保険料を多めに払った」とか書いてありますが、人口が多い世代が払う保険料の総額が多くなるのは当然すぎますので、一人あたりの保険料負担も多めだったと言いたいのでしょうか? では、どの世代と比べて「多め」なのか書いてくれても良さそうなものですが…。

気になって少し調べてみたのですが、過去55年間の国民年金保険料とインフレ率の変遷を見る限りでは、ごく最近(2011年~2014年)の例外を除いて、インフレ調整後の保険料の上昇率は常にプラスだったという事実がわかりました。つまり、保険料負担は過去55年間ほぼ一本調子に増え続けてきたということです。

したがって、団塊世代だけでなくどの世代においても、年上世代よりは多めに払っているし、年下世代よりは少なめに払っていることになります。「保険料を多めに払っている」というのは、むしろ現役世代の方から団塊世代に向かって言うべきセリフであって、日経の記事のように団塊世代が現役世代に向かってドヤるためのセリフではありません。

参考までに、調べたデータを置いておきます。
当初の月額100円は現在の物価に換算してもたったの444円です。現在の保険料と比較して、負担の格差が35倍以上というとんでもないレベルに拡大していることがお分かりいただけるかと思います。

保険料を納付する月分月額物価指数月額(現在価値)保険料上昇率(実質)
昭和36年4月~昭和41年12月\10022.5\444?
昭和42年1月~昭和43年12月\20027.4\72964.2%
昭和44年1月~昭和45年6月\25029.7\84115.3%
昭和45年7月~昭和47年6月\45033.9\1,32657.7%
昭和47年7月~昭和48年12月\55039.6\1,3884.6%
昭和49年1月~昭和49年12月\90049.2\1,82731.7%
昭和50年1月~昭和51年3月\1,10055\1,9989.3%
昭和51年4月~昭和52年3月\1,40060.2\2,32316.3%
昭和52年4月~昭和53年3月\2,20065\3,38145.5%
昭和53年4月~昭和54年3月\2,73067.5\4,04019.5%
昭和54年4月~昭和55年3月\3,30069.9\4,71616.7%
昭和55年4月~昭和56年3月\3,77075.5\4,9885.8%
昭和56年4月~昭和57年3月\4,50079.2\5,67613.8%
昭和57年4月~昭和58年3月\5,22081.3\6,41413.0%
昭和58年4月~昭和59年3月\5,83082.8\7,0349.7%
昭和59年4月~昭和60年3月\6,22084.7\7,3364.3%
昭和60年4月~昭和61年3月\6,74086.4\7,7936.2%
昭和61年4月~昭和62年3月\7,10086.7\8,1815.0%
昭和62年4月~昭和63年3月\7,40086.6\8,5364.3%
昭和63年4月~平成元年3月\7,70087\8,8423.6%
平成元年4月~平成2年3月\8,00089\8,9801.6%
平成2年4月~平成3年3月\8,40091.7\9,1511.9%
平成3年4月~平成4年3月\9,00094.8\9,4843.6%
平成4年4月~平成5年3月\9,70096.3\10,0636.1%
平成5年4月~平成6年3月\10,50097.4\10,7707.0%
平成6年4月~平成7年3月\11,10097.9\11,3275.2%
平成7年4月~平成8年3月\11,70097.6\11,9765.7%
平成8年4月~平成9年3月\12,30097.6\12,5905.1%
平成9年4月~平成10年3月\12,80099.2\12,8902.4%
平成10年4月~平成11年3月\13,30099.9\13,3003.2%
平成11年4月~平成12年3月\13,30099.5\13,3530.4%
平成12年4月~平成13年3月\13,30098.6\13,4750.9%
平成13年4月~平成14年3月\13,30097.7\13,5990.9%
平成14年4月~平成15年3月\13,30096.6\13,7541.1%
平成15年4月~平成16年3月\13,30096.3\13,7970.3%
平成16年4月~平成17年3月\13,30096.3\13,7970.0%
平成17年4月~平成18年3月\13,58095.9\14,1462.5%
平成18年4月~平成19年3月\13,86096.2\14,3931.7%
平成19年4月~平成20年3月\14,10096.3\14,6271.6%
平成20年4月~平成21年3月\14,41097.8\14,7190.6%
平成21年4月~平成22年3月\14,66096.4\15,1923.2%
平成22年4月~平成23年3月\15,10095.6\15,7793.9%
平成23年4月~平成24年3月\15,02095.4\15,728-0.3%
平成24年4月~平成25年3月\14,98095.4\15,687-0.3%
平成25年4月~平成26年3月\15,04095.8\15,6840.0%
平成26年4月~平成27年3月\15,25099\15,389-1.9%
平成27年4月~平成28年3月\15,590100\15,5741.2%
平成28年4月~平成29年3月\16,26099.9\16,2604.4%



2017年3月14日

国民年金はすべての世代で払い損はない、って本当?

日経の記事より。
 20歳になると年金制度の対象になりますが、国民年金保険料の納付率は6割強にとどまります。厚生労働省の「国民年金被保険者実態調査」によると、滞納理由で多いのは「保険料が高く、経済的に支払うのが困難」という回答です。保険料は年間で20万円に迫り…
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厚生労働省は14年の財政検証に基づき、年金の世代間の給付と負担の差を試算しています。様々な経済状況下で各年齢の人が平均余命まで生きたと仮定し、満額払った保険料に対して受け取る年金の総額を出しました。「国民年金はすべての世代で保険料の払い損はないという結果でした。半分が税金で支払われているからです」とみずほ総合研究所の堀江奈保子上席主任研究員は指摘しています。
厚生年金は労使折半だからお得という誤解とよく似た話で、加入者が直接負担する保険料しか計算に入れていないことが誤りなのです。「半分が税金で支払われているから」その分は計算に入れなくていいのですか? そんなわけないでしょう。その税金は誰が払っているのでしょうか…。

さらに国民年金の場合は国庫負担のうちのざっくり半分は国債で将来世代へ先送りしているので、先行世代がその分だけ得をするのは当たり前とも言えます。もし仮に税負担も含めて試算した結果が「すべての世代で払い損はない」だったとしても、ここで言う「すべての世代」とは、先送りされた借金を負担せずに逃げ切れる世代だけを指しています。「将来世代も含めて払い損になることはない」とは一言も言っていないわけです。逃げ切りラインがどこになるかの予想は難しく、自分が将来世代の方に含まれない保証などどこにもありません。

このように、負担を見えにくくして先送りする一方で受益は見えやすく強調することで、誰もが得をするような錯覚へ誘導するのは、公営制度設計における常套手段です。厚労省の試算が結論ありきなのは当然として、民間企業の「上席主任研究員」ともあろうお方がそれを知らないはずはなく、何らかの意図があって全力で年金制度をヨイショしているようにしか見えません。

将来世代をも巻き込む莫大な税負担がなければ支えきれないような欠陥制度を、何とかして擁護しようと必死で屁理屈をこねくり回すのは、そろそろやめにしましょう。

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2017年2月15日

リタイア後に「安心」を追求する危険性

内藤忍公式ブログより。
「老後に安心できる生活をするためにはいくら必要?」というのはお金に関する定番の質問です。仮定を設定すれば必要額を機械的に計算できますが、そもそも資産を持っていれば安心という発想が間違えているのです。
(中略)
「何歳まで生きるか」というのは不確定ですから、いくらあれば安心かという「資産額」の議論には結論は無いのです。
「安心」という感情を基準にするならば、確かにこういう回答が正しいと言えます。しかしなぜ「安心」を基準に意思決定することが当然のような前提を置いているのか、そこに大きな疑問があります。「そもそも」論で言うなら、資産かキャッシュフローか以前に、まずそんな基準で本当にいいのかと考える事から出発する必要があるのではないかと。(後述)

私が知っているシニアの年金生活者は、国債を解約して中古ワンルームマンションを2戸購入しました。それまで国債から入ってくる金利は年間で2万円程度。それを不動産にした結果、キャッシュフローが入ってくる仕組みができ、毎月の手取りは16万円(年間約200万円)になりました。国債の100倍近いキャッシュフローが手に入るようになったのです。
こういう場合、目に見える手取り収入だけでなく、元本部分の価格や各種コストを全て合計したトータルリターンを比較しないと意味がありません。不動産の時価がいくらになっているのかを無視して、キャッシュフローの部分だけ取り出して2万円が200万円だから100倍!みたいな計算をする行為は、「心の会計」の典型であると思います。

ちなみに私もこの事例とよく似たワンルームマンションのオーナーを知っていますが、見かけ上の収入とみなされるキャッシュフローが多いので、国民健康保険・介護保険は毎年80万円以上払っているようです。キャッシュフローによって税金や社会保険料が跳ね上がるコストもきちんと加味しなければ、正しい比較はできません。

するとそれまでは、ひたすら節約生活をしていたのが、入ってくる家賃収入は使っても良いと考えるようになりました。
これもお金に色をつけて区別する行為であり、典型的な「心の会計」の罠に嵌っている人の考え方です。

リタイア後に毎月使っても良い金額が、資産運用の「トータルリターン」に比例して増えるのだ、と言っているならわかります。しかし、「キャッシュフロー」があればそれは全部使ってもいいが国債の元本部分に手を付けるのはダメ、みたいな区別はナンセンスです。

収入は緩やかに減っていくかもしれませんが、持っている預貯金と切り崩していく生活よりずっと安心感があります。
ここでもひたすら強調されているのは「安心」のみで、「安全」だとは一言も言っていないところがポイントです。

不動産投資とは、リスクを取ってトータルリターンを高めようとする行為です。国債を売って不動産を購入すれば、期待リターンは高くなりますが、ポートフォリオのリスクは上がり、資産の安全性は下がります。「安心」という感情を優先してキャッシュフローを獲得しに行った結果、皮肉にも「安全」が犠牲になっている事例だと言えます。

人間の脳に生じる安心、不安という感情は、必ずしも客観的な安全、危険と一致するものではなく、両者が無相関や逆相関になっている場合も少なくありません。

わかりやすい例を挙げると、「飛行機に乗るのは不安だけど、自分で車を運転すれば安心」というのがあり、実際の安全性とは逆になっています。これが脳のバグによって生じる不合理であることを知らなければ、危険な方を選んで安心するというおかしなことが起こります。

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2017年2月10日

自分に不要な選択肢は「なくなったほうがいい」のか?



ゆとり隊長さんのツイートより。引用されていた元ツイート。

ある人にとっては絶対に合意できない酷い契約条件だったとしても、言えるのはそれが自分には不要ってだけのことで、それが世の中から「なくなったほうがいい」とまで言ってしまうのは、その条件で合意する人がいる可能性を無視している点で「想像力不足」だと思います。

この例で言えば、子供産んだら働けなくなる職種でも、そんなことはどうでも良いと判断する人がいる可能性を無視して、彼らの選択肢が減るほうがいいと言っているわけです。自分が選択しなければ済むだけなのに、なぜかその選択肢ごと世の中から消し去ることを希望する発想には、不同意と言わざるを得ません。さらに言えば、その発想が無邪気な善意から来ているのだろうと想像できるだけに、余計に怖さが募ります。

どんな条件の雇用契約も、なくなるか存続するかは雇用者一人ひとり、労働者一人ひとりの選好次第で自然に決まればよいことで、自分の選好を「世の中に存在すべきか否か」という視点にまで拡大して適用すること自体が大きな間違いだと思います。自分とは価値観の異なる他人同士がどこでどんな契約を結ぼうが、第三者が干渉することではないでしょう。


話は変わりますが、受動喫煙防止の件も、本来は店と客それぞれが自由に選べばよいだけの話を、喫煙可能な店が「なくなったほうがいい」を実現する方向へ規制が着々と進んでいるのも由々しき事態です。私は嫌煙家なので喫煙可能な店など選ぶことはありませんが、自由な経済活動を阻害する規制をこうも簡単に許していたのでは、国民自身がどんどん貧しくなるだけだと思います。関連ツイート:
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2017年2月3日

過去のスーパーボウルを見ながら思ったこと

テレビを捨てて以来長らくNFLは見ていなかったし、ネットでニュースを追うこともしていなかったのですが、そろそろスーパーボウルの季節だなと思ってYouTubeのNFL公式チャンネルを覗いてみたところ、過去のスーパーボウルが丸ごとアップされているではないですか。

3年前の第48回を見終わった感想。
ペイトン・マニングえらい老けたな…。ファーストプレイの凡ミスでいきなりセーフティくらったのがケチのつき始めで、やることなすこと上手く行かずに惨敗してるし。これで引退なんだろうなと思わせるような内容なのに、2年後に再びSB出場を果たしたと知って驚きました。

次はその第50回スーパーボウルを見ようと思います。




スポーツでも映画でもゲームでもケータイでも何にでも言えることですが、公開されて間もない最新のものを手に入れようとすると、需要が高い分だけ当然コストも高くつきます。ところが1年も経てばコストは大幅に下がり、無料や格安で手に入ることも珍しくありません。

最新のものを追いかけることをやめるだけで、かつて最新だったコンテンツが未消化のままどんどん蓄積され、故にわざわざお金を払ってまで最新のコンテンツを消化する暇がなくなる、という好循環が生まれます。

早期リタイアして以来、こうしてマイペースで遊んで暮らすのにそれほどお金は必要ない、という思いはますます強くなるばかりです。

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当ブログ満7歳の誕生日を迎えました。 総PVは7年かかってやっと100万を超えたところです。感謝。 人生の時間があと何年残っているかわかりませんが、ここまでは思い描いた通りの自由なリタイア生活を送ることができているので大変満足しています。 無理に近況報告ネタを書こうとすると 1年...
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