2013年6月7日

『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』 金子 哲雄 (著)



昨年10月に肺カルチノイドで亡くなった金子哲雄さんが、人生最後の1か月に書き上げた本です。
いや、書いたのは彼だけではありません。奥さんの金子稚子(わかこ)さんがページ数多めの「あとがき」を書いているので、お二人の共著だと思います。

この「あとがき」が私の泣きのツボに入り、涙が止まらなくなりました。二人が別れの時を悟り、最後に交わした言葉が余りにも切なくて…。歳をとると涙もろくなるものですね。

大学時代の就職活動の話。
私は同じエリアにある会社の面接日を、できるだけ同じ日に集中させたのだ。
(中略)
当時はバブル崩壊後だったが、それでも会社の面接に赴くと、1000円程度の交通費が支給された。多いところだと2000円!
同じエリアでまとめて面接を受けているので、交通費が浮く。1日平均5000円の収入になった。
私は彼より数年早く就職したバブル世代の端くれですが、売り手市場なのをいいことに同じような手口(笑)を使って荒稼ぎしたことを思い出します。東京~大阪間の新幹線代とかも普通に出た時代です。接待ランチも当たり前でした。
インターネットも携帯電話もない時代でしたが、バブル世代に生まれたというだけで就職がベリーイージーモードだったのは本当にラッキーでした。

奥さんと出会ったときの話。
「一緒に生活したら、ランニングコストが低そうだな」
と思っていた。月20万かからないだろう、という具体的な数字も頭に浮かんだ。
さすが金子さん、目の付け所が違いますね。
「ランニングコスト」というのは馬鹿にならない問題で、私の知り合いでランニングコストが高い女性と結婚した人は、みんな不幸になっている。
どんな奥さんと結婚するかで人生は変わる。それは真理だと思う。
いろいろ悪い見本も見てきた上で辿り着いた一つの結論なんでしょうね。

でも、私には仕事がすべてなのだ。生きがいなのだ。仕事をすべて降板し、治療に専念したら、自分が自分でなくなってしまう気がした。
結果的に、41歳でのリタイアかもしれないけど、倒れるまで仕事をした。いや、倒れてからも仕事をしている。
余命宣告されても仕事を辞めないなんて、自分なら絶対に選ばない対極的な生き方ですけど、ここまで仕事がすべてと割り切っている人を見ると逆に清々しく感じます。

経験して初めてわかることがある。
もし皆さんの周りにがん患者がいたら、
「好きにしたらいいよ」
と温かく声をかけてほしい。
「がんばれ」
という言葉もつらい。
たいへん参考になります。よく覚えておきたいと思います。

賢い選択、賢い消費をすることが、人生を豊かにする。
名言だと思います。

あと1年半の命のところ、苦しい治療を受ければ3か月延びるということなら、1年半のままで終わっていい。
最後までこうしてやりたいことをやり、妻とふたり、長いことおしゃべりして死んでいけるのがいい。
寿命が3か月延びる治療で苦しませるのは、本人のためになるのだろうか。家族が精一杯のことをやったと思えるだけのために、0.01%もない奇跡のために、国の医療費を無駄遣いするのは、自分の本意じゃない。
同意します。
重要なのは、生きた時間の長さじゃないです。クオリティー・オブ・ライフです。

正直、自殺したい。
でも、もう、それもできない。
体がまったく動かない。
正直に言うと、今すぐ死にたい。この苦しみから解放されたい。誰かが死なせてくれるなら、喜んで死ぬという気持ちにもなる。
こんな気持ちになってしまうほど、病気の苦しみは過酷だったのですね…。
分かる気がします。

自分は最後まで、自分に正直に生きてきた。濃い人生だった。そのことを、誇りに思う。
私も最期にこう思えるような人生にしたいです。仕事観こそ対極的ですが、人生観は似ていると感じました。

参考記事:
【読書感想】僕の死に方 エンディングダイアリー500日 - 琥珀色の戯言
マエダが語る! 「自分史」 いのちと向き合った自分史―『僕の死に方』
吉村ゴンゾウあわー 僕の死に方 金子哲雄

1 件のコメント:

  1. はじめまして
    昨日初めて訪問いたし過去記事を拝見させていただきました。
    とてもしっかりした考えをお持ちでおられ安心して読んでいられました。
    最近はブログの更新は少ないようですが、私もアーリーリタイヤなのでもっと早く知っていたら色々会話することができたのにと思いました。
    著者の金子さんはテレビで拝見したことがあるだけですがプロフェッショナルでしたね。
    どうか、よろしくおねがいいたします。

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