まずは簡単な算数の問題を1つ。 チョコレートとガムは合わせて110円です。 チョコレートはガムよりも100円高いです。 ガムの値段はいくらでしょう? どうだろう、すぐに正解が分かっただろうか? 行動経済学者ダニエル・カーネマンは、これとよく似た問題を、心理学の実験として数千人に解かせた[*1]。被験者は名だたる大学の学生たちだ。ハーバード大学、MIT、プリンストン大学。世界でもっとも優れた頭脳の持ち主たちのはずだが、50%以上の被験者がこの問題に正しく答えられなかった。「もっと多くの大学で試したら、おそらく誤答率は80%を超えたに違いない」とカーネマンは述べている。 ほとんどの人が、この問題を…
この本は未読ですが、類似の本を何冊か読んでいるので既視感の強い内容ではありました。
そんな中で腑に落ちなかったのがここ。
たとえば、あなたが10回続けてコイン投げに負けた場合を想像してほしい。11回目にあなたが勝てる確率は何%だろう?「遅い思考」を磨いてきた人は、きっとこう答えるはずだ。「50%、コインは記憶を持たない」──数学のテストなら、それが正解だ。けれど現実の生活に当てはめれば、そんな答えを出すやつはいいカモだ。なぜなら、そのコインは細工されている可能性が高い[*3]。「遅い思考」に縛られるあまり、現実には役に立たない結論を出してしまう人のことを「頭のいいバカ」と呼ぶ[*4]。「そのコインは細工されている可能性が高い」って、どうしてわかるのかなあと。ここに書かれている情報だけでその結論を導く方法を私は知りません。出典は
[*3]ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラックスワン』ダイヤモンド社(2009)上巻p227だそうですので、この本を読めってことですね。さっそく図書館で予約しておきます。
そういう結論になる理由がわからない今の私が考えたのは、次のような事です。
通常1/2の確率で勝てるはずの勝負に10回連続で負けたのなら、それは単なる偶然ではないだろう――こういう類の推測が「速い思考」によって瞬時に閃く人間の脳って、確かによく出来ているなとは思います。しかしだからと言って、推測の域を出ない未知の事柄を既知であるかのように錯覚しかねない速い思考が、遅い思考よりも現実の役に立つとは言えないと思います。むしろその錯覚が災いをもたらすことも少なくないのではないかと。
たとえば「株価が10日連続で下落したのなら、それは単なる偶然ではない。下がり続ける原因があるはずだ。だから11日目も下落するだろう」みたいな思考様式で、全力で空売りを始める人がいたらどうでしょうか。その速い思考が正しいかどうか検証する手がかりさえないのに、よくそんな無謀なことができるなあと思いませんか。
個人的経験から言えば、「遅い思考」が得意で、なおかつ「遅い思考」の限界を知っている人がいちばん一緒に仕事をしやすかった。「数字で分かるのはここまで。ここから先は分からない」と判断したら、パッと思考方法を切り替えられる人。確かに、遅い思考ではどんな結論も導けない状況において、何らかの意思決定が必要な場面もあることは否定しません。そういう場面での速い思考への頭の切り替えは、特に訓練しなくても本能的にできる事だと思います。人間の脳は生まれつき速い思考ができるように設計されているからです。しかしその逆方向への頭の切り替えは、後天的な訓練によって初めて身に付く能力です。
「遅い思考」にステータスを全振りしている人よりも、場面に合わせて2つの思考を使い分けられる人のほうが、頭いいなあと私は感じる。場面に合わせて2つの思考を使い分けるためには、遅い思考に全振りするぐらいでちょうど良いバランスになると私は感じます。それぐらい、脳内の2つの思考の非対称性は大きく、放っておくと速い思考の方が支配的に振る舞う特性を持っていると思います。
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